タイトークラシックス
グラフィックの高画質化に加え、幻想的なBGMやSEを完全再現。アーケード版とがらりとアレンジが違うTANZ MIX版BGMも収録し、ZUNTATA MASAKI氏による『ZUNTATA 30th MIXバージョン』を新規に追加。ゲームコントローラーやApple TV対応など多数の追加要素を加えています。
タイトーといえば、なんといっても「スペースインベーダー」だ。
「スペースインベーダー」が登場したのは1978年。ピンク・レディーが歌った「UFO」、「サウスポー」、「モンスター」がいずれも100万枚以上のセールスを記録し、洋画では「スター・ウォーズ」「未知との遭遇」が封切られ、キャンディーズが解散し、矢沢永吉が「時間よ止まれ」と、堀内孝雄が「君のひとみは10000万ボルト」と歌い、サンシャイン60、成田空港がオープンし、24時間テレビが始まり、日中平和友好条約が調印され、タンクトップが流行し、原宿に竹の子族が登場した、そんな時代だった(ようです)。
自分は当時まだ中学生だった。中学校のすぐ目の前にもいわゆるインベーダーハウス(インベーダー専門ゲーセンみたいなもの)ができたが、入店は学校がすぐに禁じていた。俺は当時、なんと! 今では自分でも信じにくいことに"生徒会長"だったので、さすがにインベーダーハウスに入ることはできなかった。 が、同じ野球部員だったG君のお父さんがこれまた、なんと! ゴルフの練習場を経営していて、そこに遊びに行ったときに、ゴルフの試打をするところの手前にちょっとした休憩スペースみたいなエリアがあり、そこに筐体が置いてあったのだ! 自分はそこで初めてインベーダーゲームを体験した。
高校生になると、すっかり勉強しなくなった俺は、一時期ゲームセンターにもちょくちょく行っていた。もともと生徒会長で真面目なタイプだったわけだが、そう見られたり、それを演じることがイヤになった部分もあった。
といっても、ずっとゲームセンターに入り浸っているわけでもなく(そんなお金はなかった)、なんとなくブラリと様子を見て、ちょっとゲームをやって出ていく、という感じだった。が、ちょうどその頃、中学生の時にちょっとだけ遊んだ「スペースインベーダー」=シューティングゲームが、敵が派手に動き、画面がスクロールし、設定や音楽がリッチになり、どんどん進化していくのを横目で少しだけ見ていた。
当時を思い起こすと、シューティングゲームの進化がゲーセン、あるいはビデオゲームの進化そのものと言ってもよい時代だった。そして、ゲームセンターでいちばん輝いていたのは、そのシューティングゲームの達人たちだった。
自分はシューティングゲームは下手だったので、シューティングゲームが本当にうまい人間がいて、その人たちがなんであんなに上手にプレイができるのかわからなかった。自分は何をプレイしても、だいたいすぐに死んでしまうので、シューティングゲームが上手い人たちが本当にすごい! と思い知ったのはその頃だった。
その後「ゼビウス」の画面に衝撃を受けて、何度も遊んだが、仲間内でいちばん下手だったのが自分だった(その人間がファミ通に入ってしまったのはなぜなんだろう?)。
人とではなく、純粋にコンピューターが動かす敵の大群と対峙して、たった一人で早く的確に撃ち避け、ゴールに到達する、という"純粋な行為"には他者が入る余地はない。コンピューター対プレイヤーの競技だ。
自分はそれよりも、スポーツを中心とした対戦ゲームばかりをするようになった。人とやれば、自分が勝つ余地をより見つけられやすい、またそこが楽しい、と思ったからだ。
だが、だからこそ、たまにその"純粋な行為"をしたくなる自分がいる。
画面全体と個々の敵の位置や攻撃を判断して、どこからどう倒すか瞬時に判断し、自機を寸分たがわず正確に動かす能力。冷静でゆるぎない計算力、思考力、ひらめき、実行力。それらがすべて揃ってなどいない、それがどれだけ足りないかを、たまに痛感するために、遊ぶのだ。ある意味で、自分の中ではシューティングゲームこそがキング・オブ・ゲームでたまに、その分野での自分の能力(が足りていないこと)を確認することで、ゲームという幅広い世界との距離を再確認しているのかもしれない。
'90年代に入ると、より高インカムな格ゲーに押されて、シューティングは徐々にゲーセンの中でも置き場所が変わっていく。台数も減っていく。それでもシューティングをプレイするのは徐々にマニアに、特定のジャンルの愛好家になっていく。キャラクター色や色物っぽいものも増えていく。
そんなときに、そのシューティングゲームをフル3DによるCGを導入して、グライフィックの綺麗さだけではなく、敵機の登場シーンやステージ構成や背景の演出もド派手に動かしてみせ、さらに「レイフォース」からのロックオンシステムを戦略的かつスコアアタックとしても活用できるゲーム性においても強化し、それらを時に無機質に時にドラマチックに我々の魂をさぶるZUNTATAのBGMで包み込み…。それらの要素で完全武装し、シューティングゲームってすごいんだぜ!! って宣言をしたのが「レイストーム」だったんじゃないのか。
縦スクロールで、宇宙を舞台にしたこのゲームは、「スペースインベーダー」から始まったシューティングの進化の歴史の、王道中の王道に、確信を持って、1フロア上の階にやってきたんじゃないか。
今回プレイしてみて、そんなことを思った。
1996年に発売された「レイストーム」は、自分はすでにファミ通に入っていて、バカ総研とかも書き始めた頃だったとすると、忙しくてほとんどゲーセンには行ってなかったと思う。
だから、まず「タイトーメモリーズ 下巻」に収録されている「レイストーム」を遊んでみた(コンティニューという“技”を多用してクリアーした)。そのあとiOS版の「レイストーム」をプレイしたわけだが、思いのほか、タッチパネルによる操作にさほど不便はなく、むしろ十字ボタンよりもすばやく移動できる場合もありそうだな、とも思った。
遊ぶ前は、俺は、本格的なシューティングゲームはスマホではほとんど遊んでいなかったし、実際スマホでは厳しいんじゃないの? と正直思っていたが、やってみると、思いのほか"イケた"。
きっとこれは、かつて「レイストーム」がゲームセンターで格ゲーや音ゲーを遊んでたゲーマーたちに「おい! こんなスゲーゲームもあるんだぜ!」と呼びかけたことと同じなんじゃないか、と思う。
スマホでもこんなのできるんだぜ! と。そして、シューティングってスゴイんだぜ! と、訴えているような気がした。
とくに最終面は、ステージの構成・演出とそれらにピッタリのBGMにとにかく、グっと来ます。
自分は、下手だけど、定期的にシューティングゲームがしたくなる、とさっき書いたけど、今度その時がきたら、もしかしたらこの「レイストーム」を遊んでいるかもしれないな、と思う。
バカタール加藤
プロフィール
株式会社Gzブレイン所属。
「ファミ通64+」、「週刊ファミ通」、「Walker47」等の編集長を歴任。現在ニコニコチャンネルにて、「世界でいちばん役に立たないゲームch.」や「ユリコちゃんねる」といった番組をプロデュース。
また、毎月第2・第4火曜日、「東京中日スポーツ」の紙面で「オヤジでもわかるゲームな話」を連載中!